VOICE:2015年
  「持つべきは覚悟」 副将 木下魁
 


今年の目標は昨年達成できなかった入れ替え戦への出場。
そのビジョンを現実のものとするためには何が必要だろうか?
 
DFの改革。
僕ならそう答える。
自分はDFマインドな人間だ。小学校の頃からタックルに厳しかった父親の存在がそうさせたのか、それとも高校時代のチームスタイルがそうさせたのかは分からない。だが、「強いチームはいいDFから成り立つ」ということは紛れもない事実だと思っている。
 
東大のDFはどうだ?
東大の低く突き刺さるようなタックルは伝統と言われる。
しかし少なくとも自分が入部してからの東大はいいDFをもったチームではなかった。いや、結果から推察するにBグループに降格してからずっとそうなのだろう。
 
昨シーズンのDFを見つめ直してみよう。
昨年は紆余曲折を経て"スライド"と"ダブルタックル"というテーマに落ち着いた。相手のオーバーラップに対してスライドで人数を合わせ、ダブルタックルで相手をスローダウンさせる。言っていること自体は間違いではないと思う。実際に一発でロングゲインを食らうシーンは前年と比べても減った。
しかし、昨年の"抜かれない"ことを重視したDFはボールを奪い返すことができず、毎フェーズ少しずつゲインを許した。抜かれるリスクを下げようとするあまり、後ろで待つDFになってしまっていた。
 
対抗戦Bで勝ち越しを目指すのならば、あるいはそういったDFでもいいのかもしれない。だが、入れ替え戦出場にチャレンジする以上、格上の相手に挑戦し、勝利を掴まなければならない。いや、対抗戦Bに東大よりも格下のチームなどないと言うべきだろうか。
 
 
僕たちは挑戦者だ。

 
年末年始は 花園、大学選手権、トップリーグと各世代のトップチームが凌ぎを削る、 日本のラグビー界にとって最も熱い季節。その舞台に立つチームの多くが前に出るDFをしていた。
パナソニック、帝京、東福岡。王者と呼ばれるチームでさえリスクを冒して前に出ている中、チャレンジャーである我々がリスクを背負わずして勝てるのか?
 
東大は強者ではない。相手に練習通りのATをさせた上で、それを受け止められるほど上手くも強くもない。
自分たちが勝つためには、鋭い出足と低いタックルで相手にプレッシャーをかけ、カウンターラックを制圧することで、相手の形を作らせないことが必要なのではないのか?
 
京大戦を、一橋戦を思い返せ。
危険を冒してでも前に出る相手のDFに、練習してきたATを封じ込められたのではなかったか?
もちろん敗因はそれだけではない。AT、DF、エリアマネジメントにコンディショニングまで数え上げればキリがない。しかし、どちらの試合もチャレンジャーに相応しいプレーをしたのは相手の方ではなかったか?
 
 
東大こそ挑戦者に相応しい。
東大は常に挑戦し続ける集団であるべきだ。
 
 
今の東大に一番必要なのはリスクを背負ってでも「前に出る覚悟」ではないか?
スピードに乗って相手に突き刺さることへの恐怖や入れ違いに抜かれることへの不安、そうした負の感情を抱えながらも前に出る。そんな"覚悟"をもてるか。
今年のチームの命運はそこにかかっている。
 
 
長々と偉そうなことを書いた。
しかし、去年のDFの迷走の責任は自分にある。振り返る度に後悔と先輩たちへの申し訳なさが募るばかりだ。
しかし挑戦者である以上、立ち止まっている訳にはいかない。これは自分にとって挑戦だ。自らの目標を達成すべく、先輩の無念を晴らすべく、伝統の復活を期してDFの改革に着手する。
 
またこの決意を固めるにあたって僕に力をくれたのは、恥ずかしながら後輩たちだった。 
最後にその時の思いと、今シーズンの1プレーヤーとしての覚悟を記しておきたい。
 


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1月5日、僕は近鉄花園ラグビー場にいた。母校・尾道高校の後輩たちを応援するためだ。
 
準決勝第2試合、相手は2冠の絶対王者・東福岡。全国の舞台で4度対戦し、4度跳ね返された相手。そんな高い壁に対し、過去2年も東福岡に敗れ花園を去っていた母校はリベンジを誓い果敢に立ち向かった。

12-40。スコアの上では差がついた。しかし後半15分までは個々の強さも展開力も上回る相手に対し、魂のDFで相手の攻撃を封じ込め、互角の戦いを繰り広げた。
 
ナイスゲームだった。久しぶりに魂を揺さぶられるような試合を見せてもらった。うちの高校は詰めることしか知らない。決してDFが上手いと言えるチームではない。しかし彼らの魚雷のようなタックルと懸命にバッキングに走る姿からは尾道の"spirit"を感じた。自分もこんな試合をしたい。心からそう思った。
 
今は高校時代のような厳しい環境に身を置いていない。大学で3年間ぬるま湯に浸かってきた自分の"spirit"は錆び付いてしまっている。しかしまだ終わったわけじゃない。勝負の年はこれから始まる。12月の第2週に向かって、もう一度自らの"spirit"を研ぎ澄まし、あいつらに、尾道の名に恥じないプレーヤーになって熊谷のピッチに立つ。
 
 
自らを信じ
仲間を信じ
正々堂々