VOICE:2015年
 
「可能性を信じて」  主将 森和宏 
 


この間ふと考えた。「お前将来東大で主将になるんやぞ」と入学したころの自分に言ったらどう反応するだろうか、と。一笑に付すか、相手にしないか、はたまた喜ぶのか。様々な答えを予想したが、きっと呆れながら「うそつけ、レギュラーになれるかどうかもわからんのに」と言うのではと結論を出した。もちろん想像の話で答えなど存在しないが、当時の自分は紛れもなくそう思っていたのだから、もしかするとあながち間違いでもないのかもしれない。

 

 

入学当時、本当にレギュラーになれるか不安だった。それどころか、どのポジションをやるのかもよくわからなかった。灘高入学とともにラグビーを始め、3年間のほとんどをWTBとしてプレーした。人数は決して多くなかったし決して強豪校でもない灘校においては、本当に下手だったが、1年の秋からはずっとレギュラーだった。しかし何度でも書くが、本当に下手だった。パスもキックもランもタックルも、何一つとして得意と言えるものは無かったし、試合でチームの勝利に貢献した覚えもあまり無かった。それでも大学でラグビーを続けることにはほとんど迷いがなかった。ラグビーが大好きだったことが一番だが、正直レギュラーじゃなくてもいいと思っていたのが大きかった。好きなラグビーを続けられるならそれでいいや、そう思ってしまうほどに自分は下手くそだった。

 

 

大学でもラグビーを続けよう。そう決意してからまず悩んだのはポジションだった。当時、自分はそんなに足が速いわけでもないし、大学ではWTBでやっていくのは厳しいかもしれないと勝手に思っていた。それならいっそ一生懸命パスを練習してスクラムハーフで頑張りたい、そう思っていた。実際にハーフの後輩にパスを教えてもらったりもした。ハーフというポジションを甘く見ていたと言われればそれまでだが、それぐらいにWTBとしての自分に自信がなかった。結局ハーフへの挑戦は入学後すぐに挫折したが、WTBとしてやっていける自信は正直言って全然なかった。俺はスイカ着れるのかな、そんなことを漠然と思いながら部活を始めたことを今でも覚えている。

 

 

そんな自分が3年経って、主将をやることになった。たくさんの人がこの決定に驚いただろう。同期も後輩もOBさんも両親も友達も。でも紛れもなく一番驚いたのは自分だ。決まってすぐの頃は、ただただ驚きしかなかった。正直全く実感なんてなかったし、しばらくはまだ覆るんじゃないか、そう思うくらいだった。でも実際は自分が主将で、自分がチームを引っ張っていかなければならない、真剣にそう考えるようになってからは、何度も重圧に押しつぶされそうになった。自分の弱さに直面する度に、自分で務まるのかと不安でたまらなくなった。それでも自分を支えてきたのは一つのプライドだった。このチームの中で、入学してから一番伸びたのは自分だという自信が、自分を奮い立たせてきた。

 

 

そして今、チームが動き出さんとするスタートラインの上に立って、それこそが自分が主将をやる意味だと思うようにもなった。東大は推薦でとってきた選手はいないし、ラグビー経験が豊富な選手も少ない。それどころか、未経験者も多数いる。そんな東大が、経験の豊富な他校を相手に勝とうとしているのだから、東大の選手は他校を超えるスピードで成長しなければならない。AチームもBチームもジュニアもマネージャーも、みんなが主体的に取り組み、成長しなければ東大は勝てない。だから、一番成長した自分が主将になることで、みんなを成長へと導く必要がある。そう思うようになった。

 

 

そのために、どうやって自分が成長してきたのかを知ろうと毎日必死に考えた。ああでもないこうでもないと考えを巡らせるうちにたどり着いたのがラグビーを考えるということだった。大学に来てラグビーの深さについて知り、もっと知りたいと思い、ラグビーについて一生懸命考えてきた日々が自分を成長させてくれた。そのことに気づいてからは、事あるごとに、耳が痛くなるほどに「ラグビーを考える」ことを要求してきた。もっとラグビーに対して真面目になってほしい。その一心だった。

 

 

東大生は真面目だとよく言われる。ラグビー部もその例外ではないと思う。本当にたくさんの時間をみんなと共有してきて、そう思う。自信を持ってみんな真面目だと答える。でも、それはみんなが人間として真面目なヤツが多いということでしかない。ラグビーに対して真面目かと聞かれると、決してそうではないヤツも多いというのが正直な感想だ。

 

 

ラグビーに対して真面目ってどんなことだろうか。部内でアイツは真面目だよなって話を耳にするとき、その多くは休まずに練習にきたり、早くグラウンドに出たり、雑用をちゃんとやったりを指すことが多い。もちろんそういうことが出来る人間を真面目って言うんだと思う。そういうヤツがいて部が動いていくし、みんなそういう心掛けが出来ればすごくいいことだなとも思う。でもそんなことより俺は、みんなにラグビーに対して真面目になってほしい。もっと言えば、真面目なんて言葉ではなくて、みんなにラグビー馬鹿になってほしいのかもしれない。矛盾するようだけど、きっとラグビーに対して真面目なヤツってラグビー馬鹿のことなんだと思う。

 

 

ラグビーに対して真面目だと言うと自画自賛っぽいから言いたくないが、自分はラグビー馬鹿だと思う。ラグビー馬鹿というと、ラグビー博士みたいに聞こえてしまいがちな気がするけど、それだけではないと思う。ラグビー馬鹿ではあったとしても、自分は決してラグビー博士ではない。元々、未経験者も多い東大ラグビー部だから、それなりにラグビーを見ていてそれなりに詳しい方ではあったと思う。でも海外のラグビーは正直全然知らなかったし、戦術なんてことはサッパリだった。

 

 

それでもWTBやステップには詳しかったと思う。そういう意味ではラグビー馬鹿というより、細かく言えばステップ馬鹿やウィング馬鹿だったかもしれない。インターネットでWTBの選手の名前を検索してはプレー動画を見あさった。何度も見た。コマ送りにしてフォームを確認しては何度も真似した。画像を調べて足の向きや首の角度まで真似した。いきなりトップスピードでは出来ないと悟ってからは歩きながら練習した。毎日毎日外を歩くたびに相手をイメージしながらステップを踏み続けた。想像の中では1万人くらいは抜いたと、冗談ではなく思う。試合を見る時もウィングばかりを追いかけ、FWでもいいステップを踏む選手がいないかばかり見ていた。実際に1年の時、東大で1番好みのステップを踏むのはFLの先輩だった。

 

 

そうこうして、そんなことばっかりしているうちに、ステップやランが武器だと言われるようになった。周りにステップ教えてほしいと言われることもあった。考えて一生懸命やれば形になるんだと、自信を持てた瞬間だった。3年になってからは、ランやステップだけではなく、もっとラグビー全体についても考えるようになって、選手として更に成長できた。2年のときに川島さんといったスキルのある4年生や外部コーチに頼り切って成長できなかった自分に対するふがいなさや口惜しさ、川島さんたちへの申し訳なさが自分を変えた。今でももっと2年の時に考えておけばよかったと後悔して仕方なかったが、考えることの重要性を再認識できたことを今はプラスにとらえている。

 

 

ただ、後輩のみんなには後悔してほしくない。もっともっと考えれば、みんなはもっと成長できると思う。これを書くにあたって1年の時の自分の映像を振り返ったが、後輩のみんなは当時の自分より上手い選手ばかりだ。その気になって頑張れば、自分なんていくらでも越えられる。嘘だと思うなら自分のところまで来てほしい。1年の時の映像を見れば、みんなわかるはずだ。だからもっと気づいてほしい。みんなは可能性に溢れていて、ラグビーについて考え行動に移せば変われるということに。きっかけは何でもいい。タックルでもパスでもそれこそステップでも何でもいい。そしてそれをきっかけに選手として大きく飛躍してほしい。

 

 

このチームを変えるために、今年入替戦に出るために、その思いでこの文章を書いてきた。しかし、書き終えようとする今になって、今年のチームだけでなく、むしろみんなの将来のために成長してほしいと思う自分がいる。みんなが4年になった時、自分のように、なんでもっと考えなかったんだと後悔してほしくない。今からみんなが考え、4年になれば、本当にいいチームが作れると思う。そのために今から必死で考えて、必死で動き続けてほしい。今年の入替戦出場はその先にあると思う。俺も、みんなのために、今年のチームのために何度でも言い続ける。もっともっとラグビーについて考えてほしい。もっともっと自分の可能性を信じてほしい。もっともっと動き続けてほしい。全員が成長を遂げ、入替戦出場に歓喜するその瞬間まで。