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ラグビー部リレー日記
リアル
投稿日時:2019/08/08(木) 22:47
クールな印象ですが、話すととても腰の低い一年スタッフの琴音ちゃんからバトンを受け取りました、三年の倉上です。「背中に羽が見えている」と表現していただき、天にも昇る気持ちです。
今回は、私がここ一ヶ月ぐらいハマっている漫画に関する話をしたいと思います。井上雄彦さんの『リアル』という作品です。井上さんといえば、スポーツをする者なら一度はその名を聞いたことのある名作、『SLAM DUNK』の作者であり、バスケのイメージが強いかと思います。『リアル』もまた車椅子バスケを題材にした物語であり、努力や友情といった部分を描いている点では『SLAM DUNK』と近いと言えるかもしれません。しかしその物語の軸は、いわゆるスポ根漫画のように「勝利」や「敗北」にあるのではなく、それらを通じた「前進」にあるように思います。
物語全体をここで説明しようとすると長くかかってしまうので、概要だけ説明させていただきます。主人公は三人。骨肉腫で左足を失った戸川清春、大切な人をバイク事故に巻き込んでしまった高校中退の野宮朋美、野宮の元チームメイトで、交通事故で下半身付随になった高橋久信。この三人を中心にして、車椅子バスケを通じた人間ドラマを描いています。
私はこの作品を読んでいく中で、『リアル』というタイトルの意味を考えるようになりました。作中の彼らが直面する現実は、どれも困難なものばかりです。主人公たちだけではなく、その周りの人たちもみな、何か乗り越え難い現実にぶつかり、苦悩し、それは物語が終わるまで、いやきっと終わってからも続きます。
しかしこの作品はそういった現実と向き合う姿を、決して「かわいそうな障害者」だとか、「社会的弱者」の健気な姿として描くのではなく、激しく戦い、ときに敗れ、這いつくばってでも前進しようとする、実に「リアル」な姿として描こうとしています。そういった意味でのタイトルなのではないかと自分なりに解釈し、今自分が置かれている状況を客観的に考えてみようと思います。
5月に肩の手術を受けた私は現在DLに入っており、まだ当分ラグビーができません。東大ラグビー部でのDL生活はこれが初めてではなく、一年生の頃に少々、二年生時には3ヶ月の長いDL生活を送って来た私ですが、思い返せばその都度何かしらの「希望」を抱いてDLになっていた気がします。この期間を利用してめっちゃ強くなってやるとか、ラグビー以外のことでも、この期間にたくさん勉強しようとか、そういったことを考えていました。このように考えること自体悪いことではないし、目標を立てることは必要なことです。しかしDLに入り、プレーしていたときに抱えていたプレッシャーから解き放たれて、少し高い目標や希望を抱いてしまっていたのであれば、それは「リアル」と本気で戦う者のすることではないと思います。実際私の抱いた「希望」たちは具体的な目標になることなく、つまり客観的な評価がなされずに、なあなあになって復帰をしてしまっていたというのが現実です。
DLが直面する現実とは、何でしょうか。
一つには、怪我です。車椅子バスケをプレーする人たちのように、もう一生体のある部分が動かない、という状態ではもちろんないですが、一度抱えた怪我は、復帰後のプレーにも大いに影響してきます。それをまず認めなければなりません。思っているよりも強くはならない、そのことを受け入れるべきです。
そして怪我よりももっと強大な「リアル」が、チーム内での競争です。私を含めDLに入ると、チームのことが客観的に見られるようになるため、自分が上手くなったような気になります。しかし実際には、チーム内競争の中では最下位にいると思った方がいいでしょう。プレーできない選手に、ゲームの局面を打開することはできません。少なくともプレーしていなければ、自分の手ではどうしようもないことが沢山あるのです。
漫画の話に戻ります。私が『リアル』の中で最も好きなセリフの一つに、「別に勝たなくてもいい。ただ、負けるなよ。」というものがあります。これは半身麻痺を負った高橋に向けて、高橋の父が言った言葉です。自分の今の現状に勝とうとして、それを一生懸命否定したって仕方がない。それを直視して、押しつぶされないよう踏ん張れということです。
DLは決してラグビーがプレーできなくてかわいそうな存在などではありません。私たちDLは、怪我という現実に潰されて自分が本来目指していたものを見失わないように、踏ん張って、戦っている存在です。そう自分たちを奮い立たせなければいけないと思います。
怪我したことを言い訳にするのではなく、怪我という負債を抱えたことを認め、その上で常に戦っていこうと思うのです。最後に笑えるように、今ある環境で精一杯もがいていきます。
と熱く語ってきましたが、何はともあれ、ぜひみなさんに『リアル』を読んでいただきたいなというのが、一番伝えたいことです。今目の前にあるものに全力で挑んで行こうと、前を向ける作品だと思います。まとまりのない文章失礼いたしました。
次は、最近筆者へのイジりが一段と加速している二年生の北野にバトンを回したいと思います。彼は山中湖合宿にてサッカーゲームで私にボロ負けし、どうやら相当悔しがっているようです。大切な後輩を不覚にも傷つけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
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