ラグビー部リレー日記

この目に見えないものを

投稿日時:2022/03/25(金) 21:00

リレー日記大好き仲間である同期の三方からバトンを受け取りました、4年スタッフの榎園琴音です。ナイスリレー日記でした。三方と喋っていると、この人頭良いなとか、頼りになるなと思うことが多いです。4年生になってから、FWリーダーとしてアフターのユニット練を仕切る様子を頼もしく思いながら日々ビデオを撮っていますが、先日はモールから飛び出してきた三方に轢かれそうになってしまいました。

今回のリレー日記は、1つの文章を一ヶ月以上かけて書くわたしにしては珍しく、直前になっても書くことが決まらず本当に困ってしまいました。そこで、2020年から毎年書こうとしては下書きの段階で挫折してきたテーマを引っ張り出してきて、きちんと向き合ってみる事にしました。お付き合いいただけると嬉しいです。

先日、とある後輩と話していて仰天しました。彼が、スタッフの練習開始前の仕事はテーピングとアイシング用の氷作りのみだと思っていたからです。実際は他にも色々と仕事は存在しており、ドリンク作り、ビデオ・脚立・薬箱といった用具の準備、ジャージチェックなどを日々行っています。水道の水でプロテインを溶かすプレイヤーと並んでドリンクを作るなど、彼らの視界に入りやすいところで仕事をしている部分も多くあるので、そうかそれほどわたしたちの動きは目に入っていないのか、と純粋な驚きを感じました。

最初は「それやばいよ」などと言って彼を平謝りさせていたのですが、実はこうしたことはわたしにも思いあたる節がいくつもあり、そしてその事実に後から気づいたため、過去2年分の没リレー日記をPCから掘り起こすに至りました。以下はその引用です。

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2020年5月 2年生
先日、ともかさんが「ベンチコートは今度クリーニングに出すから~」といったようなことをおっしゃっていました。1年使い続け異臭を放ち始めた部のベンチコートもようやく綺麗になるのか、よかったよかったと思っていたのですが、数日後に「ということはスタッフの誰かがベンチコートを部室からクリーニング屋に持って行かないといけないのか」ということに気づきました。その仕事の存在がわたしには見えていませんでした。
思えば入部してからそんなことを繰り返してきました。
確かにそこに存在していたのにも関わらず、「それ」を知らずに生きてきたことを知ると、今までの自分は何を見ていたんだろうと、毎度毎度、己がすごく間抜けな存在のように思えます。

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2021年6月 3年生
先日、諸事情でラグビー部主務専用メールアドレスのアカウントにログインさせていただきました。このメールアドレスを使って、ラグビー部主務(今年度は津田さんです)はOBさんや他大学の主務と連絡をとっているのですが、次々と届くメールの量に目が飛び出し、腰を抜かしそうになりました。主務が大変で忙しいというのは昨シーズン主務の太田さんを横目で見ながら十分わかっているつもりでいたけれど、本当は実態など何もわかっていませんでした。もちろん主務の仕事はメールのやり取りのみではないですし、この業務をプレーと両立している津田さんは本当にすごいです。いつもありがとうございます。

他にも、同じ同期スタッフであっても違うセクションに所属している人の具体的な仕事内容を全て把握することはできていないし、あの人はめちゃくちゃ忙しそうに見えるけれど実際いつ何をどんな風にやっているのかしら?と思うこともあります。スタッフ組織外のことになるとそれは尚更で、今プレイヤーが苦しみながらも毎度頑張っているCCの雰囲気や実態もよくわかっていないです。

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自分の視野の狭さには、入部してから随分と悩まされました。複数のことに気を配るのはもともと苦手です。一つの作業に集中しすぎてしまう。練習中に起きた怪我などのイレギュラーなことに気づけない。手が空いた時に何をすればいいのかわからなくなってしまう。などなど。1年生の時には、毎練習自己嫌悪に陥っていました。

とは言っても、こうしたもともとのわたしの性質は、時間の経過とその中でのトライアンドエラーがある程度解決してくれる部分もあって、入部から3年経った今では、少なくとも入部直後の自分と比べると色々なことが見えているように思います。

一方で、自分のことだけで手一杯で余裕がなかった1年生の時に比べると色々なことを考えるようになり、そこでまた新たな戸惑いや反省が生まれていきました。今引用した没リレー日記がまさにその例です。

2年生のわたしは、自分以外の何かに思いを馳せることができるようになったという点で進歩を遂げています。そして、「他のスタッフの仕事が見えていなかったこと」というか、作業自体は知っていたのにそこに他者の労力を見出すことができなかったことにショックを受けています。

3年生のときには、スタッフだけではなく、学年が上がるにつれて関わりが生まれた主務について今までよく知らなかったこと、そして現在進行形でプレイヤーの状況をしっかりと理解できていないことに課題感を感じています。

毎年いろんな気づきがあり、その度に視野が広がった気がしてきました。

ラグビー部に入るまで、「視野が広がる」というのは、例えば今まで30度しかなかった視界が、60度、90度と幅を広げていくことなのだと思っていました。
けれど、そこに確かに存在するのに今まではぼやけてよく見えなかったものが、だんだんと色や形を現し始め、わたしの目がそれを捉えられるようになっていく。それもまた、「視野が広がる」ではないかと思います。

最高学年になった現在のわたしの視界はどうでしょうか。まだまだピントが合っていないようです。

私が広報セクションリーダーになってからそろそろ1年が経ちます。そして12月の卒部までも、やはり広報セクションリーダーでいるつもりです。

広報セクションは、スタッフがリーダーを務めながらその構成員の多くがプレイヤーであるという、少し珍しい構成を取っています。厳密には体づくりのS&Cセクションも同じような構造を持ち、同期スタッフの彬くんが大量の”野郎”(S&Cに所属するプレイヤーのことです)を率いているのですが、S&Cと広報には決定的な違いがあるというのがわたしの意見です。

乱暴な言い方であることをわかった上で言うと、プレイヤーにとってS&Cは「自分ごと」で、広報は「他人ごと」です。

ウエイトをする、良い食事を摂る、睡眠時間を確保する。S&Cがアプローチする要素の一つ一つがラグビーでの勝利に直接つながっています。ならば、そこを強化するための方策にプレイヤーが関与するのも、非常に自然なことというか、自分のことなのである意味当然のようにも思えます。

対して広報は、「組織力の向上」や「応援してくださる方への還元」などを目的として動いている組織です。広報で行ったことは回り回ってチームのため、ひいてはプレイヤーのためになっているのだけれど、じゃあそれを実感しながら日々の仕事を行えるかと言われると、それはまた別の話だと思います。

もちろんわたしは広報なくしてチームは成り立たないと思っていますし、そこにプレイヤーの視点が入るということにも大きな意義があると信じています。かといって、広報への参画がプレイヤーのラグビーを阻害してしまっては本末転倒というか、元も子もありません。プレイヤーはプレイヤーである前に一部員だ、という論理の存在は知っているしそれは実際本当に正しいのだけれど、その綺麗事が通用しないほどタフ(にわたしからは見えている)なのがラグビーというスポーツで、スタッフというサポートの立場が部に存在する以上、組織力の向上とラグビーの上達とでは、大きな力を割くべきはやはり後者なはずです。それがラグビー部という組織の本質ですし、広報する対象が脆弱では、せっかくの広報の意味も無くなってしまいます。

その中で、どこまでプレイヤーに負担をかけていいのかがわたしには「見えない」んだよな、というのが、近頃考えていることです。今シーズン登場した練習メニュー、BBCのつらさが「見えない」。練習の合間に詰め込むパンの苦しさが「見えない」。(厳密には苦しんでいる姿を目にしてはいるのだけれど、その苦しみの度合いを心底理解してあげることはできないという意味です。)練習の疲労度の高さが「見えない」。家に帰ったら襲ってくる睡魔が「見えない」。そんなスタッフのわたしが、セクションリーダーのわたしでも大変だと思うことが多々ある作業をプレイヤーにあれこれお願いしてしまっていいのか。それはそこまでしてやる意味があることなのか。プレイヤーは大丈夫と言ってくれるのだけれど、そもそもこの構造自体が歪んでいはしないか。考え出すとぐるぐるぐるぐる、きりがありません。

これまでの、気づきによってどんどん視野が広がっていく経験とは異なり、わからないものがわからないままになっている宙ぶらりんな状態が今のわたしです。そして、本件に関して明確な答えは見つからないのだろうとも思っています。そうした中での最近の気づきが何かあるとしたら、ラグビー部という組織、そしてその構成員について全てを正しく理解するのは「絶っっっっ対に無理」と思うようになったということです。以前は、努力と気づきを重ねればいつかは部の全貌が見えるのだと心のどこかで信じていました。1人の人間が全てを把握できるほど、この部は単純ではありません。4年生だからといって全能になれるわけではないのです。

そのことに気づいたにもかかわらず、冒頭のエピソードのように後輩をネチネチ責め立ててしまったというのもやはり、依然として狭いわたしの視野によるものなのかもしれません。ごめんね池田くん。

この目に全ては見えません。だからと言って、開き直って漫然と過ごしてもいられません。

卒部まで視野を広げ続けるにはどうすればいいのでしょうか。

答えは、東大ラグビー部の「多様性」にどのように向き合うか、というところにあるのだと思います。

ラグビー部の魅力を聞かれて多くの人は「雰囲気」と答えますが、次に多い答えが「多様性」です。ラグビー部には本当に色々な人がいます。出身もラグビー経験も性別も性格も価値観も様々です。そして、先ほどから述べてきたことからもわかるように、部の中で果たす役割もそれぞれが大きく異なっています。「スタッフ・プレイヤー」の二項対立はもちろんのこと、スタッフ一人一人の仕事も大きく異なっていますし、プレイヤーも本業のラグビーに加えて各々が各々のフィールドで部に貢献しています。

いろんな人がいて、楽しい。いろんな関わり方があって、皆が輝ける。

でもそれだけではダメなのです。

多様性をただ楽しみたいのだとしたら、例えば集まりたい時に集まり好きな場所に遊びに行くようなサークルに所属すればいいのだと思います。そうした団体のことをこの目で見てよく知っているわけではないけれど、所属人数もラグビー部よりずっと多くて、顔を出すたびに新たな出会いがあるのではないかと想像します。

対してわたしたちは、特段の理由がなければ欠席が許されない週5、6回の練習で日々同じメンバーと顔を突き合わせ、特段の理由がなければ去ることのないこのラグビー部という運動会組織を全員の手で作り上げていかなくてはいけません。

そして、多様なバックグラウンドを持ち、部に対して多様な関わり方をしつつも、チームで掲げた「入替戦出場」という目標だけは、全員が一様に目指し続けなくてはなりません。

そんなわたしたちに必要なのは、他者への徹底的な思いやりなのではないかと思います。

他者が自分とは違う存在であることを認識する。それゆえ、他者の立場や考え方が自分とは異なっていること、それぞれに得意なこと・不得意なことが存在することを受け入れる。何かの功績の上には何かの犠牲があったことを知っておく。自分の価値観を相手に押し付けない。自分だけが何かを抱え、背負っていると思わない。他者の努力や貢献が目に止まったらそれを認め、声に出してその感謝を伝える。

そして、そうした誠実な在り方を通してもなお、自分の目に見えていないものが確かにあることを自覚する。

本当に魅力的な「多様性」とは、ただ違っているということではなく、そこに属する人たちがその多様性を理解し、尊重する姿勢を見せている状態なのではないでしょうか。

人の努力であれ、痛みであれ、優しさであれ、世界にはまだまだわたしが見つけられていないもの、見えていないものが存在します。誰かをきちんと理解してあげられなかったこと、そのせいでうまく向き合えなかったこともたくさんあります。未熟です。

けれど、薄もやのようにわたしの周りに広がっている世界に目を凝らし、それらを一つ一つ見つめていくことでわたしももう少し優しくなり、人として高みに行けるような気がします。他者が考えていること、抱いているものに常に思いを馳せる。卒部までの9ヶ月間、そういった東大ラグビー部員でありたいし、そうあらなくてはならないのだと思います。

そんな決意表明のようなものをもって、例によって読む人のことを全く思いやらない長さのわたしのリレー日記を締め括らせていただきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

次は、おっとりとした雰囲気を身にまとった2年生の小野にバトンを渡します。本人にその認識があるかわかりませんが、わたしは新歓期に小野のリクルーターを務めており、ラグビー部に入部するにあたって肩の怪我とどう向きあっていくか悩む様子を少しだけ知っていたということもあり、今も怪我がちな小野のことをこっそり心配しています。復帰楽しみにしています、色々落ち着いたら去年のスモブラでもつ鍋食べに行きましょう!

[広報宣伝]
このリレー日記で書いたわたしのちょっとした葛藤と、広報セクションメンバーの多大なる貢献を経て現在完成を間近に迎えているのが、「東大ラグビー部100周年記念ドキュメンタリービデオ」です。動画編集未経験の下級生、就活で忙しい同期、卒部を迎え本来は部の仕事から解放されて然るべきであった5年生など、さまざまな立場のプレイヤー・スタッフ混合メンバーにご尽力いただき、半年がかりでやっと完成の目処がたちました。東大ラグビー部の100年の歴史や、100周年の代である杉浦組の1年を追った1時間ほどの映像作品です。
近日公開しますので、ぜひご覧ください。

※3/31(木)追記
ついに公開しました。下記URLからご覧ください。
https://youtu.be/l5PMbnyBWEk



 

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